【中編】桜咲く季節に
川風は冷たいが陽射しは暖かく、今日は良い花見日和になりそうだと、風に揺れる枝を見上げた。

四季を通して色々な風景を見せてくれるこの河川敷が翔は好きだった。

山間の清流のようにとはいかないが、それでも街中を流れる川としては綺麗なほうだと思う。

春の陽射しを受けてキラキラと輝いているその川を彩るように、風にさらわれ水面に落ちた桜の花びらが戯れるように流れている。


「綺麗だな…」


サラサラと川面を滑る花びらが、衣擦れの様な優しい音を立てる。

世の中の慌しい朝の風景も、この場所には届かないほどに静かな時間が流れていく。

風が吹くたびに舞い散る桜が、心和む香りを辺りに振り撒いた。

「…なんだか俺に頑張れって、言っているみたいだな。…よしっ!頑張るぞぉ」

勢いよく立ち上がると、気合を入れてバイクに跨りヘルメットを被ろうとした。


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