哀しい偶然
ワイングラスを持つ手が震える
ダメなのに
止めなきゃいけないのに
甘い疼きが体中を支配して、彼以外の何も見えない。
私の隣には恋人がいるのに
彼に感じたことのないくらいの切なさが、私の心を支配する。
虎太郎を嫌いなワケじゃないのに
ちゃんと好きだと思ったから彼の告白を受け入れたのに
正直な私は心の中で叫んでる
“虎太郎じゃなく、目の前にいる、この人が欲しい”と。
――ダメだ、ダメだ、ダメだ!!!
そんな自分を認めたくなくて
そんな自分を止めたくて
「ご、ごめん!私トイレ!!」
化粧ポーチを持ってそそくさと席を立つ。