密の味~恋と憧れ~
「……図星?」
いつもは涼しげな瞳が今日はやけに妖しく私を見ていた。
「ち、違います! 私は純粋に本を見に来てただけで……」
「本なんかちっとも見てなかったくせに」
「!!」
「本越しに俺を見てた。違う?」
次第に距離が縮まり、背後には本棚。
追い詰められて、いつの間にか逃げ場がなかった。
「誰かに見られたら……」
「誰もいません」
「いつ来るか……」
「こんな所に足繁く通って来るのは貴方くらいだ」
「でも私、彼がい――っ」
あの人の唇が――。
私の言葉を遮るように優しく重なる。
そして離れて、静かに囁く。
「ここにはいない」
憧れは簡単に恋に変わってしまう。
危うい感情なんだわ。