十八番-トバチ-
(・・そういえば、昔にも似たことがあったな)


小さい頃。
いつだったか覚えていないけれど、
たまたま地面に絵を描いていた自分にハナビが絵を描いてくれと言ってきた。


断る理由もなかったのだが確かその時は筆がなくて、
指で直接絵具をなぞるような形で書いた気がする。



「・・んー、あの時何を書いたんだっけなあ」


「ん?」


「ほら、前にもハナビに絵を描いてあげたことが
あったでしょ。何の絵だったかなって」


「え、そんなことあったっけか?」


「あったって。覚えてないの?」


「ガキの頃のことをか。無理いうな」

首を振って呆れながらにそう語るところを見ると、
どうやら本当に覚えていないらしかった。





『おれ、おまえの絵、大好きなんだ!
だからまたかいてよ、かずま!』


『うん、いいよはなび!』






「そっか。ごめんね、変なこと言っちゃって」


「おー?あ、それより何書くのか決めたのか?」


「んー、どうしようかなぁ」




彼ならその記憶くらいは覚えているかなと思った。



(別に絵がとってあるかなんて、思ってなかったけど・・
ちょっと、寂しいよね)



自分は覚えているのに、相手は覚えていない。



大したことなんて、ないのかもしれない。



だって普通は、あんな小さなころのこと覚えてないから。
それよりももっともっとたくさんの思い出が積み上げられてきているのだから
仕方ないだろうとは思う。



・・けれど。




自分にとってその記憶の存在は、あまりにも大きかったから。






(・・仕方ないよね)







< 12 / 26 >

この作品をシェア

pagetop