十八番-トバチ-
そんなこと初耳だ。
獄に入るのにお金が要るなんて。


驚きに目を見開いていれば、
楽しそうに口の端をあげた彼がいた。


それが、今の発言が虚であると物語っていて。



「お願いします、入れてもらえませんか。
僕はただ、会いたい人がいるだけなんです」


「親族に会うのさえ、金がかかるんだ。
ただの社会見学に来た餓鬼にそんなことをさせる暇はない」


「そんな・・・!」


「・・まぁたとえ金があったところで、
到底払えるような額ではないがな」


「・・・っ」


「分かったらさっさと帰れ。
ここはおまえのような子供が来て良い場所では・・・」




がつんっ



「え・・!?」



大きな衝撃音とともに、目の前にいた男が吹っ飛ばされる。
壁にめり込み、その場にいた誰もが半ば呆然とする。


その壁は、正面にあった獄の壁だった。
破壊された部屋には偶然獄人は居らず、大きな穴だけが空いている。



「ど、どうなってるんだ・・?」


「きゃ、きゃあ馬よ!馬がいるわ!」


「馬・・・ええっ!?」



顔を上げると。
自分の陰に覆いかぶさるような形で、
巨大な白馬がいた。


馬は自分の傍に寄り添い、まるで男から庇うように立ちふさがっている。



「・・君がやったの?」


馬は返事の代わりに、蹄でその場をこする。



「・・・おまえ・・・っ、何しやがる!」


「何って、えっと・・」


「・・んな馬飼ってたからってな、獄には入れない!絶対にな!」


「い、いやこれ僕の馬じゃな・・」


「うるせええ!!」


男は半ば発狂しながら剣を持って向かってくる。


「!危ない!」



僕は咄嗟に馬の正面へ躍り出た。





がつんっ!




先ほどよりもキレの良い音で飛んでいく影。
蹴り上げた地面からは小さく火花が散り、ぱちぱちと音を立てていた。



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