十八番-トバチ-
「あ、ありがとう・・」


馬は今度は、一度だけ瞬きをした。


僕はお礼の代わりに、そっとその首をなでてやる。



・・赤い炎を纏った、たてがみと一緒に。




「君は賢いね。どこから来たの?」


白い体に燃えるような炎の蹄、たてがみ、尾。
瞳の色も橙色に輝いている。


他の皆は、これがただの白馬だと思っている。


・・おそらく、「見えて」いないから。




「助けてくれて、ありがとう。
ついでに穴をあけてくれたことも、お礼を言うよ。

君が来てくれなかったら、獄の中に入れないままだった」


炎であるはずのたてがみを撫でても、熱くは感じない。
それどころか心地いいとさえ思えた。
ずっと触れていたい。




すると、馬が突然一歩後ろに下がった。
自然と触れていた手も下がり、距離が置かれる。



馬は一瞬だけこちらを見つめると、
どこへともなく走り去っていった。





「貴族の家か何処かから、
逃げ出してきたのかな」



あんなに綺麗な馬、見たことない。



「・・あ、炎馬だったからそれはないか」




でも、じゃあいったい何処から・・・。



あれ?




「どうして僕、炎が見えたんだろ・・」




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