十八番-トバチ-
冗談まじりで言ってみるものの、
いつものごとく睨み返されはしない。
かといって同じように笑うわけでもない。




「1000年に一度だけ、姿を見せる剣。
主を持たないせいで神が持ち主とも言われています」

「・・おまえ、剣には異常に執着するもんな。
だからこの任務も進んで引き受けたんだっけか」

「ええ。
神しか持てない剣など、本当にあるのか。
伝説はどれが正しいのか、見てみたくなったので」

「この事件も、そいつのせいだと?」

「全面的に肯定はしていませんが」



つまり否定もしていない、と。
真顔で表情を変えることなくそう告げられるものだから、
こちらもどう反応していいのかわからない。


葉は思わずため息を吐いた。



「お前の考えてること、俺にはいまだによく解らんよ」

「・・隊長、その事件についてもっと詳しく解りませんか」

「知るか!おまえもう勝手に調べろって」

「・・・」

「動けないから言ってるんだろ、って言いたいのか。
そんな目ぇしてもだめだぞ」

「・・ではせめて隊長が調べに」

「断る」

「・・・」

「・・ハァ。
被害の程度はせいぜい獄部屋一つ分くらい。
さっき言った通り偶々獄人はいなくて、脱獄の心配もなし。
壁を突き破ったのは爆発ではなかったらしい」

「らしい?」

「"聞いた"だけだからな。
煙は上がってるが火の気はない。
どうも住民によると、打撃によるショックとのことらしい。
その傍に警備隊長が伸びてたらしいから、たぶん事実だろうな」

「・・・」

「傍に男の子と馬がいたらしいんだが、
馬の方はさっさとどこかに行っちまったらしくて」


それを聞いて青年の目が細まる。
再び窓の外を見やった。


「妙な話ですね」

「ん?あぁ、打撃の話か。
まー長年やってりゃ壊れることもあるだろ。
今後はしっかり強化してもらいたいもんだが」

「いえ、そちらではなく」

「?」

「いくらたかが獄の警備隊長とはいえ、
正門から南門までそう簡単に飛ばされますか」

「大飯喰らいと喧嘩でもしたんだろ?」

「壁の強度は確かにもろいといわれてはいますが、囚人が逃げられないくらいには強いはずですよ」

「けど、偶々傍にいたっていうその子が
やれるとも思わないが」

「・・・」

「・・・」

「なぜ黙っているんでしょう」

「おまえの視線が一点にしか向いてないからだよ」




後輩のやたらときらきら輝く瞳に、葉は溜息を吐きたくなった。



「・・おまえ、任務一筋じゃなかったわけ?」

「遂行のための材料になるなら、なんだってするつもりですが」

「んなきらっきらした目で言っても全然説得力ないわ、阿呆」

「興味を持つのは良いが、ほどほどにしておけよ、キヨ。
おまえは、人を殺した極悪人、ってことになってるんだから」

「理解っていますよ、そんなヘマはしません」




同じくやたらときらきらした笑顔で。
にこりと口端に笑みを浮かべ、第肆部船員、
景清(カゲキヨ)は返事をするのだった。





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