十八番-トバチ-
午後四時。
日も沈み始め、町の景色が夕日に染められていく。
いまだ飽きることもなく外を遊び呆けていた2人は、
暫くそれに気づいていなかった。



「雪像っていつ出来上がるんだったっけ?」


「祭の最終日だったろ。
もう出来上がってるだろうけど、仕上げがあるからって
まだ非公開なんだよ」


「そっか」


「・・・雪饅頭は半ばから売り始めるけどな」


「え!ほんと!?」


目に見えて顔を輝かせた和真に、ハナビはただ呆れた。



「・・つか何年村にいると思ってんだよ。
それくらい知ってるだろ?変わってないんだしさ」


「あ、はは・・そうだよね。つい忘れちゃって」



「忘れるか?なんっか変だよな、おまえ」



今日に限ったことじゃないけどー、と呟く彼をおいて、
和真はだんだんと速度を緩め始める。
次第に距離が広がってゆき、不思議に思ったハナビが振り返った。



町の街灯が、暗くなった街道に照らされ始めた。



「どうした、具合でも悪いのか?」


「今日は楽しかったよ、ありがと」


「お、おう?なんだよ急に」


「邪魔しちゃってごめんね。明日は"祈日"だし、
こんなに遅くまで遊んでたら駄目だよ」


「・・・あれか。
あんなもん、気にしなくていいんだよ!」


祈日とは祭の2日目に行われる舞であった。
子供のいる家は、その子供の将来の成長・安泰を願って
親族共々一日家にいなければならない。



「子供だからこそだって」


「おまえはどうすんだよ」


「僕は別に、いつも通りだよ?」


「・・・」




(・・怒ったかな)




返事のないハナビに、
和真は今ひとつしっかりと顔を上げられなかった。



つまらない返答だと思われているかもしれない。
でもそれでいいんだ。
ハナビは優しい上に家族思いだ。
人付き合いも良くて友達も決して少なくないはず。
・・自分と違って。




ふぅ、と知らず息を吐いてしまえば同じくらいの音量で
はぁ、というため息がきこえた。




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