わらって、すきっていって。

言おう。本城くんとのこと。短いあいだにあった、いろんなこと。

ひとりで悩んでいたって仕方ないし。

そういえばわたし、ちーくんには、本城くんに恋していることすら伝えていないんだっけ。


「……あのさ、わたし」


「――安西ちゃーん!」


口はまぬけな半開きだった。わたしの小さな声を遮ったのは、キンキン響く、かわいい声。

振り返ると、きょうのステージで本城くんからガラスの靴を受け取っていた、ミキちゃんがこっちに走ってきていて。相変わらずかわいいお顔だ。


「あのね、ごめんね。教室にね、お財布忘れててね、安西ちゃん」

「……えっ、うそ!?」

「はい、これ。本城くんが『安西さんのだ』って言ってたんだけど、合ってるかな?」


息を切らした彼女の手にある、淡い水色のそれは、正真正銘わたしの財布で間違いない。

走って追いかけてきてくれたんだ。こんなわたしのために。かわいい子っていうのは、心まできれいなんだなあ。

シンデレラ役ってだけで自分勝手にやきもち妬いて、もやもやして、ごめんなさい。


「うん、わたしのだ……。ありがとう、うっかり忘れて帰るところだったよー」

「ううん。私は届けてって頼まれただけだから、お礼なら見つけてくれた本城くんに。それにしても自分で届けたらいいのにね、本城くん」


ヘンなの、と小さく笑って、ミキちゃんはくるりと方向転換をする。後夜祭は彼氏と約束をしているらしい。


「じゃーね、安西ちゃん。きょうはお疲れさまっ」

「うん、ほんとにありがとう」

「あ。あのね、本城くん、たぶんまだ教室にいるよ」


たぶんミキちゃんは本当に、親切心だけでそう教えてくれたんだろうと思う。

でも、なんとなく。わたしの気持ちを見透かされているみたいで、どきっとした。
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