わらって、すきっていって。

このままじゃダメだって分かっている。このままでいるのが嫌だとも、思っている。

だったらわたしはいま、なにをするべきなんだろう?


だから足は動いていた。その前に、えっちゃんとちーくんに向き合って、口を開いた。

さっき言おうとしていたこととはちょっと違うけれど。


「わたし、ちょっと本城くんにお礼言いに行ってくるね! またLINEする!」

「はーいよ。いってらっしゃい」

「早く戻ってこいよな。つか、なんだったら本城も連れてこいよ」


うん、と。ふたりに一言だけ答えて、来た道を引き返した。

小走りになるのは仕方ない。よく分からないけれど、よく分からない衝動で、胸が苦しい。


本城くん。訊きたいことも、言いたいこともたくさんあるけれど、ちゃんと言葉になってくれるかな。



「――あ、の!」


3年3組の教室。ドアを開け放ったと同時に声を発したのは、いまを逃したら、なにも言えなくなるだろうと思ったから。

教室には本城くんの姿しか見えなかった。

守田くんや野間くんも一緒だろうと思っていたから、拍子抜けしたと同時に、ものすごい勢いで鼓動が速まる。


「……あれ、安西さん」

「あ、あの! あの、本城くん。あの……財布、ありがとう」


あの、って。何回言うの。言いすぎだよ、もう。恥ずかしい。

でも、本城くんは笑った。ああ、と言って、小さく息を吐いた。

久しぶりに話したせいなのか、その表情がなんだか無性になつかしくて、胸がきゅうっとする。
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