わらって、すきっていって。

本城くん、ひとりでなにしてたんだろう。後夜祭には行かないのかな。

開け放った窓に腰かけているその姿は、紺色に染まりかけている空に溶けてしまいそうで、こわくなる。


「……安西さんは、行かねーの、後夜祭」

「えっ。あ……うん、えっちゃんとちーくんが、待っててくれてるんだけど」

「そっか」

「うん」


あれ。どうしよう。

お礼はちゃんと言えたけれど、このまま教室を出ていくのは、なんか違うし。でも、なにから切り出せばいいのかも分からない。

いつの間にか本城くんは窓の外に視線を移していて。彼は、ぼんやりと、グラウンドを眺めていた。


「……美夜に、聞いたんだろ」

「えっ?」

「事故のこととか、いろいろ。聞いたんだろ、全部」


低くて静かな声だった。心にぶら下がったままのおもりが、その声でもっと重みを増すから、真っすぐ立っているので精いっぱい。


「……ほんとう、なの?」


かすれた声になってしまった。おまけに消え入りそうなほど小さい声しか出ないので、ちゃんと聞こえているか不安だ。

でも、本城くんは、答えるようにこっちを向いて。


「本当だよ」


たった一言。でも、刃物のように尖ったそれを、わたしののどに突きつける。
< 123 / 197 >

この作品をシェア

pagetop