わらって、すきっていって。


本城は、バウムクーヘンなんていう洒落たもんを手土産に持ってきた。土曜の午後。家族は全員いないと伝えてあったはずのに、律儀なやつだなあ。


「テキトーに座ってて。オレンジジュースでいいか?」

「ああ、うん。ありがと」


玄関で靴はきちっとそろえるし、「お邪魔します」とか「ありがとう」とかいちいち言うし、ソファには涼しげな顔ですらりと座っているし。

全部、普通といえば普通のことなんだろうけど、なんかすべてがさわやかにキマっているというか。こうして客観的に見ると、本城って、ちょっと別次元の存在みたいだ。学校で会うと普通の男子高校生なんだけどなあ。

まあ、文化祭の王子役はハマっていたしな。荻野の継母ほどではねーけど。


「なあ、どっちやる? バイオハザードと地球防衛軍」


冷えたオレンジ色が揺れるグラスを手渡すと、本城はもう一度「ありがとう」と言った。


「んー、地球防衛軍がいいかな。グロいの苦手だし」

「お。もしかして知ってんの、地球防衛軍」

「いや、全然。ゲームは正直まったくやんねーもん。ずっと走ってたから、俺」


言いながらちょっと笑って、本城はジュースを飲む。その横顔は、男のオレですら見とれるほど色気があって、いたたまれなくて、目を逸らした。


「……正直さあ、ちょっと感動したんだ、オレ」


ソフトを本体に入れながら口を開いたのは、どんな顔をすればいいのかよく分からなかったからだ。

ウィン、という音がして、テレビがぱっと明るくなった。リビングのテレビの画面は、ゲームをするには少し大きすぎる。
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