わらって、すきっていって。
そこらじゅうに散らかっている私の服を、丁寧な手つきでハンガーに掛けるその背中を眺めた。そのうちに、どうしてか、どうしても、むしゃくしゃしてきた。
「なっちゃんは昔から、こっわいくらいに優しいよねー。なっちゃんの半分は優しさでできてるっていうか、もはや優しさのかたまりでしかないっていうか」
「なんだそれ。褒めてるなら、そんなこと言ってくれるの、たぶん美夜だけだ」
「それって、なっちゃんが優しくしてるのは美夜だけってこと?」
「あはは、うん、そうか、そうかも」
困ったように眉を下げて、曖昧に笑う。そして曖昧な言葉を選ぶ。
それでたいていのことをごまかすなっちゃんが、私は昔から、大嫌いだ。
出会いなんてぶっちゃけもう覚えていない。でも、はじめからいままで、彼はずっと優しいひとだったと思う。
幼いころから小生意気だった私は、男の子たちのいじめの対象で。いじめといっても、たいていはブスだのデブだのからかわれていただけだったのだけど、とんだマセガキだった私はいちいちそれに言い返していた。
正直、彼らの言葉が頭にはきても、それでへこんだり、悲しい気持ちにはなったりしていなかったんだけど。
それでも、なっちゃんだけが、本気で私を守ってくれた。『やめろ、そういうの』って。彼だけが、いつだって、私のために怒ってくれていた。
『――みよちゃんはブスじゃない。せかいいち、かわいいんだからなっ』
いまでもちゃんと再生できるよ。まだ声変わりしていない、幼いままのなっちゃんの声で。あれは幼稚園のころだったかなあ。
いま思えば、私がなっちゃんを好きになった決め手ってあの台詞だったのかも。まったく単純でゲンキンなやつだなあ、私。