わらって、すきっていって。
あくまでもお試しだって。野間くんと付き合い始めるとき彼女はそう言っていたけれど、それでもふたりはなんだかんだと仲が良くて、わたしはとても安心しているんだよ。
風に吹かれた彼女の髪の隙間から見えるのはもう、青いピアスじゃない。
「あはは! ねえ見て、これ、あんこ半目になってるー!」
ほっこりした気持ちで彼女のピンク色のピアスを見つめていた。なのに、そのきれいな顔が突然笑いだすから、なにごとかと思えば。
「ちょ、ちょっとお! うそ、やだ、消してよ!」
「うわあ、本城に見せたいなあ、これ」
「えっちゃん!? ダメだよ!? それだけは絶対にダメだからね!?」
すぐに本城くんの名前を出しては面白がる。こういうところは、恥ずかしいし、ちょっとむかつくし、すごく困る。
でも、えっちゃんほどわたしのことを考えてくれるひとって、きっといない。えっちゃんがいなかったらたぶんわたしは、早々に本城くんのことをすっかりあきらめていた。
いつもありがとう。やっぱりえっちゃんはわたしのヒーローだ。
「――あ、いたいた、安西ちゃーん!」
消して、消さない、と、スマホをえっちゃんと奪いあっていたとき。ふいに名前を呼ばれて振り向くと、そこには文化祭のときの大道具組が勢ぞろいしていた。
「ねえ、みんなで写真撮ろうよ!」
うれしい。文化祭が終わってからもこうやってみんなで仲良くできるなんて、正直あんまり思っていなかったから。
えっちゃんに「行っといで」と背中を叩かれて、その輪のなかに入った。するとみんな、安西ちゃん、って、笑顔で迎えてくれる。
安西ちゃん。あんまり呼ばれない呼び方をしてくれたから、すごく新鮮で、楽しい仲間だったなあ。
文化祭、シンデレラにはなれなかったけれど、このひとたちのおかげで本当に楽しかったんだ。