わらって、すきっていって。
やがて、写真を撮ったりするのもひと段落して、わたしは大道具組のみんなと別れて。気付けば校庭からはわらわらと人が消えつつあった。
だからちょっと、帰ってしまったかも、なんていう心配はあったのだけど。
さすが、3年間で鍛えあげられたわたしの両目は、この広い校庭のなかですぐにその姿をとらえてくれた。まだ帰っていない。いた。よかった。
「――本城夏生くんっ」
名前の主は少し肩を跳ねさせると、はっとしたようにこっちを振り返った。陽の光を浴びた彼は、少し驚いた顔をしていた。
ねえ、もう、全部が好きだよ。
いちいち列挙なんかしていられない。だって、好きじゃないところなんてないんだから、それって仕方ないよ。
本城くん。わたし、あなたの全部が、好きです。
「お、おは、お話がありますっ!」
やだな。どもるし、声はひっくり返るし。きょうもかっこ悪いや。ビシッと決めたいと思っていたのにな。
15メートルくらい向こうにいる本城くんは、目を細めてわたしを見つめると、ちょっと笑って。一緒にいた守田くんになにかを話して、それからわたしのほうに駆け寄ってきた。
ああ、本城くんが近づいてくる。
あと10メートル。5メートル。4、3、2、……
「――安西さん」
相変わらず身軽に走るなあって。ただ小走りしてやって来ただけの彼にすら見とれて、わたしは次の言葉を忘れてしまう。