わらって、すきっていって。


教室に入ると、一瞬で分かる。すぐにその姿を見つけてしまう。

同じクラスになる前からずっとそうだった。

廊下で。全校集会で。まだ名前を知らなかったころから、その姿は圧倒的な輝きを放って、わたしの視界に飛びこんでくるんだ。


知れば知るほど好きになる。

……なんて、きのう少し話しただけで、ちょっと大げさかもしれないけれど。



「――あ。おはよ、安西さん」


でも、夢みたいだけど、ちゃんと現実。

少し高い位置にある本城くんの顔がふにゃっとほころんで、わたしに笑いかけてくれた。

同時に心臓がぎゅうっと痛くなる。だから、現実。

だって、この痛みは本物だってこと、わたしはずっと前から知っている。


「お、お、おはようっ!」


よし、言えた。それもちゃんと目を見て。

笑顔は引きつってしまったかもしれない。顔だって真っ赤になっているに違いない。


でも、幸せだって思う。こんなふうに挨拶をできること。

緊張でいまにも死んでしまいそうだけど、それすら愛おしいよ。だって、どきどきうるさい心臓が、一瞬にしてたしかな熱を持つんだから。


おはようって言ってくれる。おはようって返す。

たったそれだけで、世界中の幸福をかき集めたように思えるんだ。

すごいね。本城くんは、すごいひとだ。


こうしてあなたが目の前で笑ってくれるだけで、わたしはなんでもできちゃいそうなくらい、無敵になれる。

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