わらって、すきっていって。


本城夏生(ほんじょう・なつき)というらしい。彼の名前。

かわいい名前だと思った。彼のこんがり焼けた肌に、とってもよく似合うなあって。

夏生ってことは、夏生まれなのかな。それはちょっと単純に考えすぎかな。



「――あんこ、決めた?」


ふと名前を呼ばれて顔を上げると、気の強そうな美人が困ったように眉を下げている。

彼女、えっちゃんとは去年から同じクラスで、なんとなくずっと一緒にいる。すごく楽なんだ。性格は全然違うと思うのに。

まさか今年も同じクラスになれるなんて思わなかった。だから、クラス発表のときはふたりで抱きあって喜んだっけ。


「ううん。えっちゃんは?」

「あたしは美化委員。ラクそーだから」


言いながら、えっちゃんがおどけたように笑う。それと同時に、小さな青いピアスが彼女の揺れた髪の隙間から見えた。


「あんこも早く決めなよ。早いもん勝ちなんだから」


新学期が始まって最初のHRは、クラス全員での委員会決めだった。

黒板にずらっと書かれた役職の下に自分の名前を書きに行って、早いひとからハイ決定! っていう決め方。もう子どもじゃないんだからすんなり決められるだろ、なんて、担任は能天気なことを言う。

もちろんブーイングも出た。でも、それならクラス委員から順番に立候補で決めていくかといういじわるな質問に、誰も賛成はしなかった。

それで結局、早いもん勝ちレース。らしい。


「わたし、余ったのでいいや」


でも、こういうのって昔からあまり得意じゃない。黒板の前の群衆を見て、わたしは小さく息を吐いた。
< 3 / 197 >

この作品をシェア

pagetop