わらって、すきっていって。

人の波をかき分けて、八つ橋しか入っていない、軽すぎる袋を右手に引っかけて店を出た。

わたし以外の4人はまだ買い物中らしい。ちらっと見えたえっちゃんの買い物カゴがてんこ盛りで、ぎょっとした。あんなに買っていったいどこに配るんだろう。



「――おっす、あんこ」


ぽすんと叩かれた左肩。聞き慣れた声と呼び方は、もう見なくたって分かる。


「ちーくん!」

「こんなとこでなにぼけっとしてんだよ。ひとり? 荻野は?」

「えっちゃんいま買い物中で……混んでるから邪魔になると思ってわたしは出てきたんだけど」

「おー、そっか。……んだよ、あいつ。あんなにいっぱい買ってどうすんだ?」


えっちゃんのカゴの中身が見えたのか、ちーくんも苦笑を隠せないでいる。


ちーくんは、えっちゃんの姿が見えないと、必ず最初に「荻野は?」って訊く。

そんな彼がかわいいからわざわざ詮索したりしないけど、えっちゃんのこと、すごく気にしているんだろうな。いつかちーくんのほうから打ち明けてくれるのだろうか。


「どうだった、京都」

「へっ」

「へじゃねえよ。楽しかったか?」


えっちゃんにもこんなふうに優しくすればいいのに。不器用なところもきっとちーくんの魅力なんだろうけど、いつまでも憎まれ口ばかりじゃ、うまくいくものもうまくいかないよ。

……なんて。わたしには、ほかの誰かの恋愛に構っている余裕なんて微塵もないんだった。

そんなことを考えながら、お土産屋さんのなかで買い物を続ける本城くんを盗み見た。ちーくんには気付かれないように、ほんの一瞬だけ。
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