わらって、すきっていって。


バスに戻ってもぼうっとしていた。何度も右手をポケットのなかに忍ばせては、鼓動の音を確認して、ひとりで赤面する。


ストラップ、どこにつけようか。こないだ買った新しいポーチにぶら下げようかな。それだと使っているうちに汚れてしまうかな。それは嫌だなあ。


いったい何度盗み見ただろう。友達と談笑している彼のやわらかい髪が、焼けた首筋を優しく撫でるのがたまらなく好きで、胸が苦しい。

いつも教室で見ている後ろ姿とは違う気がした。ううん。違うのはわたしのほうかもしれない。

だって、違うんだ、どきどきが。心臓はたしかに暴れているのに、いつものそれとは違う。ぜんぜん、違う。


「……えっちゃん」

「ん、どした?」

「わたし……本城くんのこと、自分が思ってるよりもずっと好きなのかもしれない」


穏やかで優しい鼓動の音。これが、恋をしたときの音。

これはきっと、わたしの、本城くんへの、たしかな気持ちだ。


「……どしたの、あんこ。ついにおかしくなった?」

「……うん。そうかも。どうしよう」


バスの窓から差す夕日がまぶしい。世界はこんなにも美しいものだったかな。

こんなバカげたことを思うくらい、わたしは本城くんのこと、とてもとても、好きなんだ。

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