わらって、すきっていって。


「――あんこー、きょう一緒に帰ろうぜー」


その日の放課後、えっちゃんと話しながら帰る準備をしていると、教室のうしろのドアからわたしを呼ぶ声がした。男の子にしては高い声。

ひょっこりかわいらしい顔を出したのは、ほかでもないちーくんだった。彼の顔を見るなりえっちゃんが「よう、チビ」と絡むので、思わず笑ってしまった。

やっぱり、えっちゃんとちーくんはとっても仲が良い。


「チビじゃねーし荻野は誘ってねーしバーカバーカ」

「あら? それはつまりあんことふたりきりで帰りたいってことかしら?」

「ちげーよ! いちいちうるせえなマジで!」

「あらまー霧島くんもう必死ねー」


ふたりを見ていると、いつか本当の喧嘩に発展するんじゃないかって心配になる。いつもそんなのは杞憂に終わるのだけど。

いいな。こうやって軽い言い合いをできる相手って、本当に仲が良い感じがする。わたしにもそんな相手ができたらいいのに。

それが本城くんだったら……もっといいのに。

いや、言い合いするのはちょっと嫌かもしれないけど。でも、それくらい仲良くなりたいって思っているのは、結構本気だよ。


さわやかな低い声が降ってきたのは、そんな気味の悪いことを考えていたまさにそのときだったから、今回ばかりは本当に心臓が止まるかと思った。


「霧島じゃん」


わたしが本城くんの声を聞き違えるはずがない。反射的にうつむくと、その先には彼のすらりと伸びた脚があって、また心臓が跳ねる。

本城くんの頭のてっぺんからつま先まで、すべてに心を奪われているんだと実感して、ひとりでたまらなく恥ずかしくなった。
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