わらって、すきっていって。
えっちゃんみたいに強い女の子になりたかった。そんなふうにかっこいいことを思えるようになりたかった。
少しの沈黙が続いたあと、彼女は小さく「ごめん」と言って、「それがあんこのいいところなんだけどね」と付け足した。
えっちゃんが謝ることなんかひとつもないのに。わたしが面倒くさいやつなだけなのに。
やっぱり男前すぎるよ。好きになってもいいですか。うそ。そういえばもう大好きなんだった、えっちゃんのこと。
「でもあんこはさ、本城の『彼女』になりたいんだね」
「えっ、そんな……恐れ多いこと……など……」
「でも好きな女がいるかもって思って泣いてるわけじゃん。それってつまり、片想いで満足できてないんでしょう?」
「そ、そうなのかな……」
「そうなんだよ。分かったらもう『見てるだけでいいの』とか小学生みたいな思考やめな」
そうかな。わたしは本城くんの彼女になりたいのかな。
走っているところを見るのが好きだった。2年間、ずっとそれだけで満足していた。
でも、同じクラスになって、名前を知って、同じ委員会になって、目が合って、話すようになって。
どうしよう。わたし、本城くんに近づくたび、どんどんわがままになっていっている。
照れたときに下がる眉も、襟足に触れるやわらかい髪も、笑うとのぞく八重歯も。あの優しい笑顔がわたしだけのものになったらって、考えては苦しくなるの。
……もう手遅れみたいだよ、本城くん。
「大丈夫、あんこ。あたしが見る限り、あんたはほかのどの女よりも本城と親密だよ。だから自信持っていい」
「え、えっちゃん……」
「あいつが誰を好きだっていいじゃん。あんこはあんこらしく、存在をアピールしていきな。あたしも協力するから」
こんなに素敵な友達がいてわたしは本当に幸せだ。やっぱり大好きだ、えっちゃん。
「……ありがとう、えっちゃん」
「あんたにはあたしがついてるからね、無敵だよ、無敵」
わたし、本当にがんばっていいのかな。本城くんの彼女になりたいなんて図々しいこと思ってもいいのかな。
……思うくらい、いいよね。