わらって、すきっていって。
人の波で先が全然見えない。
ダメだなあ。はぐれないようにって言われていたのに。あと少しで花火は打ち上がってしまうのに。
その時間はたった数分だったのかもしれない。けれど、雑踏に揉まれているうちに、なんだかものすごい心細さがこみ上がって。まるで世界にひとりぼっちみたいな気持ちだ。
情けないやら、さみしいやら、悲しいやら。
……本城くん、いまどこにいるの。
「――安西さんっ!」
掴まれたのは右の手首。反射的に顔を上げると、目の前には焦ったような本城くんの顔があって、びっくりした。
「ごめん。全然うしろ気にしてなかった。ごめんな」
「……本城、くん」
「よかった、見つけられて」
本城くんが謝ることなんてひとつもないのに。彼は申し訳なさそうに眉を下げたまま、そっとわたしの瞳を覗きこむ。
見られたくないよ、こんな顔。
だって、たぶんいまわたしすごくぶさいくな顔をしている。涙をこらえているせいだ。顔を上げたらいまにも泣いてしまいそう。
ふと、右の手のひらに熱を感じた。温かい感触だった。
それは本城くんの左手に包みこまれているせいだって理解したとき、いよいよわたし、死んだのかと思った。
だって、つながっている。彼の左手とわたしの右手が。いったいこれはどういうことなの。
歩き始めた彼を見上げても、こっちを見ようともしないし、なにも言ってくれないし。だからわたしもなにも言えなかった。
なにも言えないまま、ただ手をつないで歩いた。首筋に触れている彼の黒い髪を見つめることしかできなかった。