わらって、すきっていって。

時間が止まったみたいだ。わたしは彼を、彼はわたしをじっと見つめたまま、なぜか逸らすことができない。

夜空に咲く色とりどりの花火がやきもちを妬いてしまうかも。せっかくあんなにきれいに咲いてくれているのに、全然見てあげていなくて、ごめんね。

それでも。やっぱりいまわたしの瞳は、目の前にいる男の子しか映さないんだ。ほかのものなんて、映せない。


「……あ、の。本城くん。……あのね」


いまなら言える気がした。自分の気持ち、全部。

でも、それを遮ったのは、ほかでもない本城くんだった。


「――安西さん」

「えっ……」

「俺、きょう安西さんと一緒に花火見れて、ほんとによかった」


彼はそう言って、つながったままの手にぎゅっと力をこめる。


「最高の誕生日になった。ありがと」


そこではっと思い出す。鞄のなかに忍ばせてきたマフィンのことを。

そうだ、誕生日だ。すっかり忘れていた。


「あのっ! 本城くん、甘いものは好きですか!」

「え? うん、好きだけど……」

「あのね、お誕生日おめでとう! ございますっ」


取り出したマフィンのラッピングはきれいなままで、とりあえずひと安心。人混みでつぶされているかなって、ちょっと心配していたんだ。


「こんなのでごめんね。なにをあげたらいいのか分かんなくて……でも、せっかくお誕生日に会えるんだから、なにかあげたいなって思ったの」


我ながら言い訳くさい。恥ずかしさで早口になってしまっているの、気付かれてはいないだろうか。
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