わらって、すきっていって。
でも、本城くんはわたしの手からそっとマフィンを取り上げると、大切そうに両手で包みこんでくれた。やっぱり大きな手のひらだなあと思う。
「……もしかして手作り?」
「あ……えと、一応そう、だよ。でもさすがにちょっと」
「やばい。すげーうれしい。もったいなくて食えないかも、俺」
気持ち悪かったかな、って。のどまで出かかったその言葉は、本城くんの優しい声にかき消されてしまった。
「ありがと。うれしい」
「あ……えと、どういたしまして」
「賞味期限いつまでなんだろ。やっぱ早めに食わないとダメかなあ」
「ええっ!? ぜひお早めにお召し上がりください……!」
売っているものほどきちんと加工されているわけじゃないから、長く置いておくときっと傷んでしまう。
それなのに、すぐ食うのはもったいないよ、なんて。そんなまぶしすぎる笑顔で言われてしまうともう、なにも言えなくなるじゃないか。
でも、喜んでくれた。本当によかった。わりとまじめに引かれたらどうしようって思っていた。
なんて。本城くんはそんなふうに思ったりするひとじゃないってことを知っていて、わたしは少しずるいかな。
「あれ。いつの間にか花火終わってる」
「あ……ほんとだ。結局全然見れなかったね」
「な。でもなんか、すげー楽しかったよ、俺」
少し離れたところにある屋台の灯りがゆらゆら揺れて、きれい。オレンジや黄色のそれが目にしみて、視界がぼやけた。
そのあやふやな世界で、本城くんは笑っていた。彼はいつも笑っている。いつも優しくて、素敵で、困っちゃう。
「帰ろうか、そろそろ」
「……うん」
当たり前みたいにもう一度つながれた手に、なにか意味はあるの? もしかしてやっぱりわたしはからかわれているの?
薄々気づいてはいたけれど、このひとは天然で女の子を落としにいくタイプなのかも。いや、むしろどうか天然であってほしい。
だって、もしこれが計算だというのなら、たぶんわたしは一生このひとに勝てない。
うそだ。計算じゃなくたって、もうずっとわたしは、恥ずかしいくらい本城くんに負けっぱなしだ。