わらって、すきっていって。


やってみれば、意外と大道具も楽しいものだ。

いままで挨拶もしなかったようなクラスメートと話せたり、小さいころみたいに紙いっぱいに絵の具を塗りたくったり。あとは、腰が痛くなったり、制服が汚れたりもした。


「安西ちゃん、色塗り上手だよねー」

「えー、そうかな?」

「うんうん。絵の勉強とかしてた?」

「全然! 美術はいつも安定の3だよー」


5段階評価のうちの3。可もなく不可もなく、好きでもなく嫌いでもなく。美術はいつもそんな感じなので、意外なところを褒められてちょっとうれしい。

たしかに、えっちゃんや本城くんのいる“俳優組”とは月とすっぽんかもしれないけれど、和気あいあいとしている“大道具組”を、気付けばわたしはとても好きになっていた。


「それにしてもさ、ミキちゃんと本城くん、ほんとにハマり役だよね」


ただ、こんな台詞が聞こえてくるたびに、どうしても気分は急降下してしまうのだけれど。


「たしかにー。ていうか本城って意外とかっこよくない?」

「ね、やっぱそうだよね! スタイルもいいしさー。まさに『よく見たらかっこいい』ってやつだね、本城くんは」


そうだよ。本城くんは世界でいちばんかっこいいんだ。わたしは2年半も前から知っていた。

ていうか、よく見なくたって、圧倒的にかっこいいし。


なんて言葉は全部飲みこんで、目の前の馬車にだけ集中した。

かぼちゃの馬車って、何色で塗ったらいいんだろう。緑? 黄色? でもシンデレラの馬車だから、やっぱり白色かな。
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