唯一無二のひと
すれ違い
「……うっわあ〜ん…」
隣の部屋から、柊の泣き声が聞こえてきた。
ーーえええっ…嘘ぉ?
もう、起きちゃった……
お昼寝したのは、2時過ぎだったのに。
1時間も寝てくれなかった……はあ。
篠原秋菜は、リモコンをかざし、ドラマの再生を停めた。
昔、大好きで観ていたテレビドラマの再放送だった。
「もお、いいところだったのになあ…」
渋々、ソファから立ち上がり、隣の部屋に行く。
ひと月前に1歳の誕生日を迎えたばかりの柊がベビーベッドの柵に掴まり立ちして、真っ赤な顔で泣いていた。
「マンマ……」
柊は母親の秋菜を見ると、抱っこをせがんで両腕を伸ばし、小さな手のひらを広げる。
「はいはい。なんだよん。
涙、出てないじゃん」
秋菜は微笑みながら、柊のふっくらした頬っぺたを、人差し指でちょん、と突ついた。
「よいしょっ」
ベビーベッドから抱き上げ、腰骨の辺りに乗せる。
抱っこした柊の身体をゆらゆらと揺すりながら、テレビの部屋に移動した。
「お願いだから、もうちょっとだけ、ドラマ観せてよ。パパにビデオが一杯だって怒られちゃうから」
観ないと録画がどんどん溜まってしまう。
まだ観てないドラマで、もうHDの容量が限界に近かった。
昨晩も、豪太に「これじゃ、俺の観たいの録れねーし。なんとかして」と冷ややかな口調で言われてしまった。
柊を抱いたままソファに座り、ドラマを再生する。
けれど、柊は愚図り、しきりにキッチンの方を指差してあっちへ行こう、という仕草をする。
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