唯一無二のひと
豪太は、フレンチシェフだ。
観光スポットとして有名な大きな商業施設に、テナントとして入っているビストロに勤めている。
瀟洒なインテリアの割に、カジュアルなフレンチを食べさせてくれると大評判の店だ。
客は若い女性グループやカップルが多い。
いくつか個室もあり、値段も手頃だ。
観光地にあるから、店は年中無休に近い。
年始年末やGWの繁忙期には、地方からの客も大勢押し掛け、忙殺される。
開店から閉店までずっと立ちっ放しで、休憩もろくに取れず、調理師が足りなければ休日返上で出勤した。
それなのに、豪太の給料は決して高くなかった。
このところ、毎月ギリギリだった。
先月もその前も、貯蓄なんて一円も出来なかった。
豪太も協力は、してくれている。
27歳で父親になった豪太は、節約の為に、コーヒー豆を買うのをやめてインスタントコーヒーにしてしまった。