唯一無二のひと
10日ほど前。
秋菜は市役所のこども保育課に、保育園の空き情報を聞くためにいった。
『1歳児の場合は、空きはほとんど出ないんですよねえ。
稀に出ても、ひとり親家庭なんかが優先されるんでね。
ちょっと難しいですねえ…』
アームカバーを付けた担当の黒縁眼鏡の男性職員は言った。
しかも、共稼ぎの場合、保育料がびっくりするほど高かった。
えっ!?と秋菜は思わず目を疑った。
一桁、間違えたのかと思った。
これでは、何のために働くのかわからない。
その夜、秋菜が仕事から帰ってきた豪太にこの話をすると、豪太は顔をぎゅっと顰めた。
『だからあ!保育園なんていらねえよ。
明美おばさんが預かってくれるって言ってるじゃん。
良いじゃん。タダだしさあ』
『いや…それはどうだか……
やっぱり悪いし』
秋菜は、へへへ…と半笑いで口を濁した。
明美の30代後半の娘二人は未婚だ。
暇を持て余した専業主婦の明美は、柊を預かりたがっていた。
『ただより高いものはない』
そんな言葉が頭をよぎる。