唯一無二のひと
秋菜は父親の顔を知らない。
由紀恵は秋菜の父について、秋菜が生まれる前に病気で死んだというけれど、墓参りもしたこともなかった。
写真ですら見たことがない。
物心ついた時からずっと、母親の由紀恵の二人暮らしだった。
『私ね、父親っていうものが家庭でどういうふうに存在するのか、よく分からないんだよねー』
公園のベンチで、チェックの制服のスカートをパタパタさせながら、15歳の秋菜は言った。
『ふん。
父親なんていらねえよ。
親いなくても勝手に子は育つし』
紺のブレザーに緩く臙脂のネクタイを締めた豪太が吐き捨てるように言った。
親はなくても、子は育つ。
それは真実だ。
豪太は、生粋の朝日山学園育ちだ。
三歳の時からいると言った。
『父親の再婚相手が、赤ん坊だった俺を育てたくないって拒否したんだって』
前に、15歳の豪太は秋菜に言った。
豪太の実父は再婚相手のいいなりに、豪太を乳児院に預けたという。