唯一無二のひと
三歳になると豪太は朝日山学園に入所したが、乳児院にも朝日山にも、実父は一度も面会に来なかった。
孤児のようになってしまった豪太を伯母・明美は不憫がるものの、引き取ったりはしなかった。
今では、豪太の父親の実姉である明美ですら、彼がどこにいるのか、知らないという。
明美は、豪太の生みの母を蛇蝎のように嫌っていた。
『本当にどうしようもない女!
派手好きで、金遣いが荒くて。
料理なんて、何一つ出来やしない。
おまけに豪太生んだら、消えちゃったんだよ。
あたしらどんなに困り果てたか』
秋菜は、中2の春から半年ほど、朝日山学園で過ごした。
体調を崩し、入院療養が必要となった由紀恵は苦渋の選択として、13歳の秋菜を朝日山に一時入所させることを決めた。
『施設なんて嫌だ…
ママと一緒がいい……』
秋菜は学園の応接室で、職員たちがいるのも構わず、由紀恵に縋って泣いた。
泣いたって、どうにもならないということは、わかっていたけれど。
子供は常に大人の都合に翻弄されるものなのだ。
『ごめんね…秋菜ちゃん。
元気になって早く迎えにくるから』
由紀恵も涙ぐんでいた。