唯一無二のひと


朝日山学園での生活ーーー



緑のカーペットが敷かれた八畳程の部屋に同年代の女の子四人が同室だった。


秋菜が入所すると、共同で使うタンスの引き出し二段分と、部屋に据え付けられた壁際の一番奥にある文机が与えられた。

それらが唯一の学園でのプライベートゾーンだった。


タンスの引き出しに入り切らない物は、それぞれの名前を貼り付けたプラスチック製衣装ケースにいれて押し入れの下段に保管する。

上段には、四人分の布団が押し込められていた。


押し入れの中は衣裳ケースにも入り切らない洋服や雑多なもので、いつもぐちゃぐちゃだった。

自分のケースが奥に入ってしまうと取り出すのに、一苦労だった。


多感な時期に加え、基本的に愛情に飢えた子達だ。

学園内でのトラブルも多かった。


裏表のあるひねくれた子、平気でうそをつく子。

一番厄介なのは、手癖の悪い子だ。



朝日山学園では、時々盗難が起こった。



ある時、秋菜のお気に入りのハンカチタオルが引き出しからなくなった。


前の中学の友達が転校する秋菜に贈ってくれたもので、もったいなくて使わず、記念に仕舞っていたものだった。
すごくショックで泣いてしまった。


タオルが無くなったくらいだと、先生たちはまともに取り合ってくれない。



『犯人はきっとあいつだよ』


秋菜が相談すると、リリカは秋菜と同室で、一つ年下の中1の舞という子をこっそり指した。


舞は一度、万引きで補導されたことがあり、盗癖があると皆にマークされていた。



『舞がいない時、机とか捜索しよう』



舞が親との面会で出掛けた日曜日、リリカと理恵と莉乃は舞の机やタンスの引き出しを開けて、中を探り始めた。


三人はきゃっきゃとはしゃぎ、完全に遊んでいた。



(そこまでしてくれなくてもいいのに…)



秋菜は思ったけれど、歳上の彼女達を止めることなんか出来なかった。




結局、タオルは出てこなかった。


夕方、外出から戻ってきた舞は、明らかに誰かが触ったとわかる自分の机をみて、部屋の隅でこっそり泣いていた。



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