唯一無二のひと
『疑われるようなことをするあいつが悪いんだよ。
盗んだものは、親にあずけているんじゃないの』
リリカはうそぶいた。
秋菜はよく学園内で、リリカ達と遊んでいた。
でも、決して休みの日彼女たちと外へ出掛けることはしなかった。
友達とは、ちょっと違う関係だった。
学園に入所してから半年程経った頃、健康を取り戻した母・由紀恵は秋菜を迎えにきてくれた。
ーーやっと、家に帰れる。
自分の家でママと一緒に暮らせるんだ…
秋菜は、心からホッとした。
リリカ達や同じクラスの篠原豪太。
仲良しも出来て、学園での生活に馴染んでいたはずなのに、もうここには二度と戻りたくない、と思った。
秋菜が去る日、なぜか学園に豪太の姿はなかった。
秋菜は再び転校し、二人の縁は一旦途切れてしまう。
しかし、一年半後、秋菜と豪太は再会を果たす。
同じ高校だったのだ。
朝日山で出逢った可愛い男の子は、背がずいぶんと伸び、引き締まった精悍な顔付きになっていた。
ーー俺、秋菜んち、行きたい。…ダメ?
豪太は、秋菜に甘える目をして言った。
学校の帰り道。
放課後の校舎の裏や公園デートももう飽きた。
ポテトチップスとポッキーとコーラを用意して、秋菜の家で音楽を聴いて過ごした。
二人で制服姿のまま、居間のカーペットの上に仰向けに寝そべってお喋りしていた。
豪太は、煙草を吸いたいと言ったけれど、もちろん断った。
家の中に臭いが残ってしまえば、母に問い詰められて叱られるのは秋菜だ。
『そんなんどこで買うの?
お店の人になんか言われないの?』
『店なんかで買うかよ。
自動販売機で買ったり、先輩とかから、貰うんだ』
豪太は得意げに言う。
秋菜は呆れた。
『煙草を持っているのが、学園でバレたら、大変なことになるのに。
見せしめみたいに、罰を受けることになるのに。わかってるくせに』
『平気だって。そんなヘマしねえ』
豪太は笑って動じない。
火の点いていない煙草を唇に挟み、吸う真似をする。
学校と友達の話。
お笑いタレントの話。
ふと、話題が途切れた。