唯一無二のひと
普通の家庭じゃない
ドアの外に知らない太ったおばさんが鬼みたいな顔して、立っててね。
『この、あばずれ!』って叫んだの。
私にじゃないよ。ママにだよ。
今、考えるとあばずれって何?とか笑っちゃうけど。
『あの人が結婚していること、しってるくせに!』っていいながら鬼ばばはお風呂の中にまで入ってこようとするの。
ママは『止めて、子供の前で!』って叫んで鬼ばばを突き飛ばして、ドアを閉めて内側からしっかり鍵を掛けたの。
怒り狂った鬼ばばは、怒ってドアをどんどんどんどん叩いたあと、食器棚の食器、投げて壊したり、家具ひっくり返したり、大暴れしてから帰っていったの……
さすがの豪太も目を見開き、口をあんぐりだ。
『…とんでもねーババアだね。
人んちに勝手に入り込んで来て、風呂まで開けるなんて。
つーか、どうやって
家の中に入ってきたんだ?』
『島田から、鍵盗んで来たんだよー』
秋菜は唇を尖らせた。
島田とは、小学二年の頃に一度だけ会ったことがあった。
ーーママの通っている整骨院の先生よ。
ママのお友達。
由紀恵はそう言って、幼い娘に自分の男を紹介した。
ツイードジャケットを羽織り、鼻の下に口髭を蓄えたその中年の男は、秋菜に『こんにちは』と穏やかな声で言った。
どこかのデパートの洋食レストランでお子様ランチをご馳走してくれた。
その時は優しそうなおじさんだと思っただけで、まさか、奥さんがいる人だなんて想像もしなかった。
島田が秋菜達の住むアパートに来たことはないはずなのに、彼は合い鍵を持っていた。