唯一無二のひと
島田の妻は怒りに任せ、秋菜の家の中で、暴れ回った。
流しにあった皿を割り、タンスの引き出しを次々に開けて、衣類を散乱させた。
普通ではない物音に、隣家に住む初老の大家夫婦が駆け付けてきた。
『奥さん、どうしたんですか?
警察、呼びますか?』
慌てた彼らは鍵の開いていた玄関のドアを開け、部屋の中にいる島田の妻に声を掛けた。
まさか、目の前にいる中年女が狼藉を働いている張本人だとは思わなかったのだろう。
『警察なんて、いりませんよ。
ここの女は、私の夫を誘惑して、離婚させようとしてるんですよ!
人の家庭ぶち壊して、いけしゃあしゃあと暮らしているなんて、許せない!
あんな女、地獄に堕ちればいい!』
島田の妻は強弁した。
彼女の喚き散らす声は、秋菜と由紀恵がじっと潜む浴室にも聴こえてきた。
ーー地獄に堕ちればいい…
島田の妻の言葉に、秋菜は震え上がり、母にしがみついた。
どのくらい時間が経ったかわからない。
由紀恵は秋菜の身体が冷えないように、浴槽に度々足し湯をしてくれたけれど、もう限界、という頃だった。
温厚な大家夫婦に宥められ、ようやく島田の妻は帰っていった。
『竹内さん、私達も帰りますから。
戸締りお願いいたします』
老女の声のあと、ガチャンとドアの閉まる音がした。
「………!」
風呂から出た秋菜と由紀恵は、部屋の中のあまりの惨状に絶句した。