唯一無二のひと
『あ。ピッピは⁈』
下着姿のまま、秋菜は愛鳥のいる筒型の鳥籠を目で探す。
恐ろしい光景を目の当たりにして震えているに違いない、と思った。
『きゃああっ!!』
大きな悲鳴を上げ、鳥籠の前でへたり込んだ。
白いオカメインコのピッピは、鳥籠の中で羽根を半分ほど広げた姿で、無残にも息絶えていた。
島田の妻は、一番弱いものに報復の刃を向けた。
(ピッピは何もしていないのに…)
秋菜の怒りと悲しみは、島田の妻ではなく、島田本人に向けられた。
あの夜の騒ぎは、あっという間に近所に知れ渡った。近所の主婦達は冷ややかな目で秋菜達をみるようになった。
今まで向こうからにこやかに挨拶をしてくれたのに、由紀恵が挨拶しても、返してくれなくなった。
秋菜が朝、ゴミ出しをすると、『もうちょっと早く出せないの?』と近所の主婦にきつい口調で言われた。
まだ、ゴミ回収車は来ていないのに。
学校でも噂になってしまうのでは…と
秋菜は怯えたが、学校で誰かに何か言われる事はなかった。
(良かった…)
人しれず、ホッと小さな胸を撫で下ろした。
秋菜は近所の公園の植え込みにピッピの亡骸を埋めて墓を作った。
そして、亡きピッピの魂に
「一刻でも早く島田が母から離れ、どこかへ去ること」を願った。
しかし、何事もなくは終わらなかった。
学年があがり、秋菜が四年生になってしばらく経ってからのことだ。
下校途中に公園に寄り道して、ピッピの墓参りをするのが、その頃の秋菜の習慣だった。
可愛かったピッピ。
ヒナから育てたから、ものすごく甘えん坊で、人になついていた。
母の留守中、秋菜はピッピを籠から出し、肩に乗せて遊んでいたから、全然さみしくなかった。
ピッピは兄弟のいない秋菜にとって大切な存在だった。
思い出すと涙が出てきてしまう。