唯一無二のひと
『仕事、ちゃんと探してるの?』
今朝、仕事に出掛ける豪太が玄関先で振り返り、秋菜に訊いた。
『うん…探してるけど…
でも、いいとこなくって』
秋菜は少し笑って、首をすくめてみせた。
『そんなん、選り好みしてる場合じゃないでしょ』
豪太は、ムッとしたような顔で捨て台詞のようにいうと、ドアを開けて出ていった。
『……いってらっしゃい。あ』
パタンとドアが閉まり、秋菜が何時に帰ってくるのか訊きかけた時には、もう豪太はいなかった。
柊が1歳になった先月頃から、何度か同じ会話をしていた。
ーーあんな風に、機嫌悪く出て行くことないじゃん……1日の始まりが台無しだよ…
柊がヨーグルトを食べている隣で秋菜はスマホを取り出し、求人広告を検索し始める。
柊がまだ小さいから、そんなにガッツリ働く気はなかった。
「とりあえず、単発みたいのでいいかなあ……」