唯一無二のひと



高校時代、やんちゃだった豪太も、静岡清水にある和食店での住み込みの板前見習いの就職が決まると、茶髪だった頭を坊主刈りにした。



『必ず、俺はちゃんとした料理人になる。いつか秋菜と家族になりたいから』


まもなく、バイト先のショップで卒業後も働く秋菜との横浜ー清水の遠距離恋愛が始まる。


休みの少ない豪太とはひと月に1度位しか逢えなくなってしまった。


豪太の丸い爪の手はいつも荒れていて、それを見るたびに秋菜の胸は潰れそうに痛んだ。


ーー豪太は頑張っている。
だから、わがままを言ってはいけない…


わかっているのに、我慢出来なかった。


駅のホームで別れるたびに、秋菜は豪太の目の前で泣いた。


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