唯一無二のひと
横浜に住む母・由紀恵の家から秋菜の家までは、電車を乗り継ぎ、片道約1時間の道のりだ。
由紀恵は、生クリームとフルーツのたくさん入ったロールケーキを手土産に持ってきてくれた。
「五月人形、買ってあげる。
セールが始まったら、横浜に豪太くんも一緒に見に行きましょう」
相変わらず元気な様子で由紀恵は朗らかに言った。
「柊ちゃん、元気だった?」
柊を抱っこした由紀恵は、ふっくらとした珊瑚色の唇を孫の頬を寄せる。
久しぶりに逢う祖母に柊は、人見知りをして仰け反り、イヤイヤをした。
「嫌ねえ。
柊ちゃんたら。ばあばなのに」
それでも由紀恵は、嬉しそうに微笑む。
19歳で秋菜を生んだ由紀恵は、
今年47歳になる。
肩までの、大きなウエーブのついた艶のある栗色の髪。
化粧でうまく隠しているのか、白い肌には、シミ一つない。
大きな二重まぶたの目元には多少、皺があるものの、それは却って優しい印象を人に与える。
とてもそんな歳には見えない。
小柄で童顔の彼女は、少女時代の面影を今でも充分に残していた。
今日はシックな黒いフレアスカートのワンピースにレース地のベージュのカーディガンを羽織っている。
大人の女性にしか出来ないエレガントな着こなしだ。
年齢を重ねた女性が醸し出す色香と
しとやかな美しさを兼ね揃えた魅力的な女性だった。
由紀恵は四時間ほど秋菜と柊と過ごした後、帰っていった。
由紀恵が柊へと持ってきたブロックのおもちゃで、三人で話をしながら遊んだ。
夕方になり、秋菜が車で駅まで送るというのを由紀恵は小さく手を振って固辞した。
「いいの、いいの。
バスの時間ちゃんと調べてきたから。
1人で帰れるわよ。
それより秋菜ちゃんは、お夕飯の支度まで少し休みなさい。
明日、会社休みだったら豪太君の顔も見たかったんだけど。
豪太くんによろしくね」