唯一無二のひと
相変わらず、優しい気遣いの母だった。
由紀恵は、秋菜が小さな頃からずっと
そして母親になってからも、
『秋菜ちゃん』と『ちゃん』付けで呼んだ。
だから、秋菜は今まで一度も母に叱られたことがないような気がしていた。
「【春眠暁を覚えず】だね。
もう9時だぜ?」
秋菜が朝起きると、豪太は居間のソファでテレビを観ながら、コーヒーを飲んでいた。
コーヒーのいい香りが漂う。
「何それ?」
パジャマ姿の秋菜は、少し不機嫌に豪太の手からコーヒーカップを奪い取り、一口啜る。
「この頃、柊、夜泣きするんだよ。
私、夜中に起きて、抱っこしてあやしてるんだから。
豪太はいいよねー。
全然気付かないで大イビキ掻いて寝てるんだもん」
「柊、夜泣きするんだ。全然知らなかった」
豪太は目を丸くした。
「一度起きちゃうとなかなか寝つけないんだよね。
春眠なんとかじゃなく、寝不足の睡眠不足なの!」
秋菜は胸を張った。
「そっすか。お疲れさん」
「…あれ?」
朝なのに、豪太がやけにゆっくりしていることに気付く。