唯一無二のひと
湯の中の秋菜は、豪太の為に脚を縮こめて、彼の為のスペースを作ってやる。
背の高い豪太はちょっと窮屈そうだけれど、浴槽の湯はちょうどよい高さになった。
「まあね。
でも、島田に面倒見てもらう気なんじゃない?困った風ではなかったよ」
由紀恵のことを露悪趣味に言うのは、豪太にだけだ。
「へえ…そうか」
少し頬の赤くなった豪太が天井を見上げる。
水道の蛇口から雫が垂れて、ピチョンと音がした。
「なあ、秋菜」
「なに?」
秋菜は両の手のひらを重ね、豪太の肩に白い湯をかけてやる。
「由紀恵さん、仕事辞めたんだったら、うちに一緒に住んで柊の面倒みてもらったら?」
「えっ?」
思いもかけない提案に秋菜は驚いた。
3DKのアパートだから、荷物を整理すれば由紀恵のためのスペースが取れないこともない。
由紀恵に柊を預ければ、独身時代近い働き方ができるかもしれないし、何より明美に預けなくて済む。
「秋菜は、明美おばさんに柊を預けるのが嫌なんだろ?」
豪太にいきなり図星を指され、秋菜はどきっとした。
あんな人でも、豪太の親代わりだからと悪口を言うのを避けてきたのに。
「ううっ…まあ」
思わず口籠った。
秋菜は考え込む。
姉妹のような由紀恵と再び暮らせるのは、秋菜にとっては悪くない。
でも、由紀恵にいつでもあの島田が影のように付きまとっている。
それが問題だった。
「うちに来ると島田と自由に逢えなくなっちゃうから、多分駄目だと思うよ。
この頃、しょっ中、一緒にいるみたいだし。今日だって多分一緒にお花見してると思うし」
「そうかあ……」
豪太は眉をひそめた。
「一応、明日、電話して聞いてみるね」
そういいながら、こんな話は由紀恵がきっと断るだろうと秋菜は思った。