唯一無二のひと
昔から豪太は、突然、過激にヘアスタイルを変えることがあった。
高校生の時は金髪にしたり、モヒカン刈りにしたりして、皆を驚かせた。
子供の頃から髪型に保守的で、ボブかセミロングの間を行ったり来たりの上、パーマもカラーリングもしたことがない秋菜には、豪太のチャレンジ精神がとても信じられない。
特に高2の夏のモヒカン、本当にあれは酷かった。
モヒカンといっても、トップの毛が短いソフトモヒカンというやつなのだけれど、どこへ行っても悪目立ちして、一緒に歩きたくなかった。
すごく恥ずかしかった。
二人でいる時も、裸でモヒカン頭の豪太はすごく間抜けに見えて、本当に嫌だった。
由紀恵も豪太のモヒカンを覚えていた。
「あれよりは全然いいよ」
台所で片付けをしながら秋菜が言うと、そうね、と由紀恵は笑った。
夕方四時頃、明美は夕飯の支度があるからと帰っていった。
由紀恵は秋菜と一緒に後片付けをしてくれて、午後六時頃、電車で横浜に帰って行った。
昼間、ビールを飲んだ豪太はテレビの前で気持ち良さそうにうたた寝をして、由紀恵が帰ったあとも起きる気配がなかった。
父親のすぐ横で小さな柊が転がり、いつものようにバンザイをするポーズで可愛い寝息を立てている。
秋菜は、1枚の掛布を二人にかけてやった。
皆、柊は秋菜に似ている、というけれど、柊の寝顔は豪太にそっくりだった。
当たり前なのだけれど、父子なんだなあ、と思う。
電気の消えた暗い部屋で寝ている二人の姿を、秋菜は暖かい気持ちでしばらく見つめていた。
テレビの前に置いたデジタル時計は、あと五分で午後八時になるところだった。
(そうだ…先にシャワー浴びちゃおう。)
そう思い付く。
二人が起きてしまうから、あまり物音を立てたくなかった。