唯一無二のひと
掃除機の吸い込み口に、小さな紙のような物が貼り付いているのに秋菜は気付いた。
「どうりで変な音がすると思った…柊のおもちゃのシールが剥がれたのかなあ」
掃除機を停め、吸い込み口からそれを
取り除こうとした瞬間、秋菜は自分の目を疑った。
「……!」
衝撃だった。
秋菜が手にした紙片は、おもちゃのシールなどではなかった。
それは、プリクラだった。
プリクラには、男と女が顔を寄せ合うようにして写っていた。
男は豪太だった。
ヘアスタイルが赤茶の短髪であることから、ごく最近のものとわかる。
女は秋菜の知らない女だ。
若くて茶髪のストレートロングヘアの女はVサインをしている。
可愛いがよくいるタイプだ。
プリクラ写真の上の方に、ピンク色の丸い文字で「シノとミホ♡」と書き込みがしてあった。
この茶髪の女は、篠原の苗字から取って豪太をシノ、呼んでいるのだろう。
豪太は朝日山学園でも、中学でも、高校でもどこでもずっと「豪太」と呼ばれていて、こんな風に呼ばれているのは、今まで聞いたことがない。
三年前に移った今の店は、女性客がとても多い。
前に、秋菜が偶然、豪太の財布の中に女性客の名刺を見つけたことがあった。
厨房にいるのに。
問い詰める秋菜に
『…たまには給仕もすんの。』
と豪太は答えた。
このプリクラはそんなものより、何倍も怪しい。
「何、シノって…
何このハートマーク…」
秋菜のプリクラを持つ手は震えた。