唯一無二のひと
釣りから帰ってきて、疲れているはずなのに、寝室に入ると豪太はゆっくりと秋菜を布団の上に組み敷いた。
そして秋菜の身体に跨ると、今日の陽射しで焼けたその腕で、Tシャツの上から、秋菜の胸をマッサージしてくれた。
秋菜の頭の中には、昼間見たプリクラの残像がいつまでも消えず、豪太の手の力を何も感じなかった。
自分の布団に戻った豪太はうつ伏せになり、枕元の電気スタンドの前で雑誌を広げた。
しばらくの間の後、秋菜の方を見て、少し照れたように笑った。
秋菜は訝る。
「なに?」
「…あのさ、もしかして、デキた?」
「え…何が?」
一瞬なんのことかわからず、秋菜はきょとんとする。
「子ども。なんか胸が張ってるみたいな気がしたから」
マッサージが何時の間にか愛撫に変わり、その流れで交わったことが何度かあった。
秋菜はふっと、笑い出す。
「まさかあ。
生理終わったばかりだよ。
出来てないよ」
「そろそろ作る?二人目。柊も1歳になったし」
豪太は秋菜の顔を覗き込んだ。
秋菜は苛立ちを感じた。
二人目だって。
こないだまで、豪太は『早く働いて』って言ってたくせに。
柊だってまだ大変なのに。
言ってることが、バラバラじゃない…
「二人目なんていらない!」
つい、尖った声が出た。
「え、柊、ひとりっ子にするの?」
豪太は目を丸くした。
お互い兄弟のいない秋菜と豪太は、ひとりっ子は嫌だというのが昔から一致した意見だった。
「豪太はいいよねー。働いてるからって好き勝手してて。
豪太、来月も釣りに行くんでしょ?
私なんて家事と育児ばかりで、家政婦みたい。
家でもゴロゴロし放題だし。いつでもエッチは出来るし、本当私って都合のいい存在だよね!」
今日の疲れが言葉となって口から出る。
言わなくていいことだ。余計なことだと分かっているのに止められなかった。