唯一無二のひと
ピンポーン……
呼び鈴がなり、秋菜は現実に引き戻される。
ドンドンドンドン。
さらにドアをノックする音も聞こえる。
(ゲゲ〜…これは)
嫌な予感がした。
こんな時間に連絡もなしに訪れるのは、歩いて30分ほどの場所に住む豪太の伯母・明美に違いない。
「柊、起きてる!?」
予感的中だった。
ドアを開けると艶のない黒髪を一つに束ね、でっぷりと肥えた明美が笑顔で立っていた。
「あ、伯母さん。こんにちは。
どうぞ。ちからってますけど」
秋菜の言葉など明美は聞いていない。
「近くまで来たから、ちょっとお茶でも飲ませてよ、ハイハイ」
ずかずかと遠慮なく家の中に上がりこむ。
「あそこのスーパーで特売やってたから。卵と百円ケーキ買ってきてやったよ。
ケーキ、結構、美味しいんだよ。醤油は重いからやめた。もうずっと肩が痛くてさ」
明美は買い物のビニール袋から卵を取り出すと、勝手に冷蔵庫を開けて、それを仕舞う。
「わあ。ありがとうございます。助かります。
今、お茶いれますね」
明美の機嫌を損ねないように、秋菜は喜んでみせた。
明美の手は、冷蔵庫の扉を開けたままで一瞬止まる。
さりげないふりをして、甥っ子夫婦の冷蔵庫の中身をチェックしているのを秋菜は見逃さなかった。
「柊君はこれね。はあい。
ヨーグルト買ってきてやったよ!」
ベビーチェアの柊は、きゃあと可愛い声を出し、喜んで手を伸ばす。