唯一無二のひと
ーーまあ…どうしたの…?
真夜中12時過ぎに柊を連れて、突然訪れた秋菜に、パジャマ姿の由紀恵はとても驚いていた。
ーー来ちゃった…ごめんね。
こんな遅くう〜
秋菜は無理に戯けて言ったけれど、由紀恵の顔を見たら、やはり涙を隠しきれなかった。
ーー…ちょっと…いろいろあったの…!
声が上擦り、思わず、母の胸に縋り付いた。
リビングで由紀恵が淹れてくれたお茶を一口飲むと、秋菜はなんともいえない安堵感に包まれ、心が落ち着いた。
由紀恵は秋菜の話を黙って聴いた後、優しい笑顔で慰めてくれた。
ーー秋菜ちゃんは少し疲れてるのよ。
なんでも1人で頑張っているから。
うちでゆっくり休んでから、帰りなさい。柊ちゃんは私が見ててあげるから。
ーーうん…
鼻を真っ赤にして、秋菜は子供の様にうなずいた。
(分かってる……
豪太は浮気なんかしていない。
ミホはただのバイトの可愛い女の子。
あのプリクラにはなんの意味もないってこと……)
豪太の非は、あまりにも不用意にプリクラを妻の目に触れさせてしまったことだけだ。
ブーブーブー。
バイブ音の後、着信メッセージが表示される。
秋菜のスマホに豪太からメールが届いていた。
無視してやる、と思ったのにやはり出来なかった。
メッセージを開く。
[どこにいるの?
こんなことするなよ。
柊が可哀想だよ。]
(フンだ…豪太が謝る番なんじゃないの?)
秋菜は迷惑メールが届いた時の様に、すぐにそのメールを消した。
やっと布団から起き出し、由紀恵と柊のいるリビングに向かう。
ちょうど、テレビで柊が毎朝見ている幼児向け番組がやっていた。
柊は「ワンワン、ワンワン!」と言ってテレビの前に立ち、画面を何度も指差す。
一緒にテレビを見ている由紀恵に自分のお気に入りのキャラクターの名前を教えてやる、というように。
「豪太は私を侮辱したことに気が付いていないの。
柊が可哀想なんて問題をすり替えちゃって」
由紀恵の用意してくれたベーコンエッグとトーストの朝食を採りながら秋菜は不満げに言った。
「そうねえ……」
由紀恵は困ったように少し笑っただけで、秋菜の味方にも豪太の味方にもならなかった。