唯一無二のひと
学校帰りの夕暮れ時、豪太はいきなり振り向き、『キスしてもいい?』
と言うと同時に、秋菜の唇に自分の唇を重ねてきた。
すごくびっくりしたけれど、嬉しい気持ちで胸が張り裂けそうだった。
夜も眠れなかった。
あの頃、豪太は、ギターに夢中だった。
友達が飽きてしまったアコースティックギターを自分のものみたいに秋菜の部屋に置きっぱなしにして、来るたびに掻き鳴らしていた。
初めてお互いの全てを知ったのも、秋菜の部屋だった。
蝉時雨の夏休み。
扇風機のぶうんという風の下で。
汗ばんだ二人の身体。
絡まり合う熱い吐息…
豪太も初めてだった。
羞恥心に震えた。
少しの恐怖感と罪悪感。
でもわくわくするような不思議な気持ち。
感覚、姿勢、言葉、匂い……
秋菜は、みんな豪太から教わった。
床が畳だったから、背中と膝が痛くなって途中で押入れから布団を出して敷いた。
『ムード台無しだね』
豪太の言葉に二人で笑った。
やるせない痛みに耐え、少しずつ1つになった。
いつだったか、学校の帰り道、豪太は言った。
ーーー秋菜、俺たち、いつかカゾクになろう。
ーーカゾク?…フウフじゃなくて?
ーーフウフもそうだけど。カゾク。
もっと進化型。
おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん、子供。
俺、そういうのないじゃん。
実はちょっと憧れるんだよね。
ーーふうん…
ーーまあ、いたらいたで面倒くせーかもしんないけどさ!
豪太は照れたように笑った。
秋菜にも祖父母というものがいなかった。
幼い頃、母方の祖父母の若かりし頃の写真を見たことがあったけれど、そんな風に考えたことがなかった。
あれから月日は流れた。
二年間の遠距離恋愛。
豪太をテーブルに呼びつける女性客…