唯一無二のひと
ざわめく夜の中華街。
頬を伝う涙をブレザーの袖口で拭いながら、歩いた。
この日以降、秋菜が島田に逢うことはなかった。
由紀恵も島田のことは一切話題しなかった。
「すみません、お邪魔しまーす」
豪太が由紀恵の家を訪れたのは、午後七時ごろだった。
豪太は、果物のゼリーの入った紙袋を由紀恵に手渡し、なぜかさっぱりとした様子で
「柊が熱を出したことにして店を早退きしたんだ」と言った。
「ねえ!聞いてよ!」
豪太の顔を見るなり、秋菜は飛びつくようにする。
予想外の事に気持ちが動揺し、喧嘩していることなど、忘れてしまっていた。
秋菜から、由紀恵と島田が結婚したことを聴くと、豪太は驚き「まじで?」といって、目を見開いた。
そしてにっこりと笑みを浮かべた。
「そうだったんだ。おめでとう。
早く言ってくれればいいのに。
お祝い何がいい?」