唯一無二のひと


秋菜はハッとした。

驚くばかりでなんの祝福の言葉もかけていなかったことに、やっと気が付いた。


目の前にいる自分を慈しんで育ててくれた人に。

自分が恥ずかしくなった。


豪太は立ったまま、くるり、秋菜の方に身体ごと向くと、いきなり、自分の顔の前で、パン!と手を合わせた。


(えっ…!)

一瞬、何が起きたのかと、秋菜は肩を
ビクつかせた。



「育児ノイローゼ気味の秋菜ちゃん!


秋菜を拝むようにして大声で言う。


「昨日は、本、投げてゴメンね!
もう、他の女とプリクラなんて絶対撮らねー。ゴメンね!許して!この通り!」


秋菜は呆気に取られた。


ずるい…と思った。

由紀恵もくすり、と笑う。

秋菜は唇を尖らせた。


(そんな風に言われたら
『もういいよ』って許すしかないないじゃん…)


悔しいと思いつつも、心のどこかで安堵する。

そして、口にする。


「…もう、いいよ」


秋菜の言葉に、豪太がニッコリと笑みで応える。



【もう、いいよ】


それは、昔から何度も二人の間で交わされた仲直りの合言葉。


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