唯一無二のひと


由紀恵は言い淀んでいた。


どんな言い方をすれば良いのか、目の前に置かれた麦茶のグラスに視線を落とし、考え込んでいるようだった。


秋菜はぼんやり、斜め向かいの由紀恵の顔を眺めていた。


色白の頬。
長い睫毛を伏せて出来た目元の影。

チェリーピンクのふっくらとした唇…



………あっ!
…もしかして……?



その考えが秋菜の頭の中に閃いた瞬間、思わず大声で言ってしまった。



「もしかして、ママ、
赤ちゃん出来た!?」


「……ええーっ!?
マジ?出来たあ?!」


秋菜の言葉に豪太が仰天し、席から立ち上がらんばかりの勢いで叫んだ。


1番驚いたのは、由紀恵だった。

真っ赤になって、力いっぱい両方の手のひらを振る。


「嫌だ!違うわよ!
そんなわけないでしょ。
ママをいくつだと思っているの。
赤ちゃん産む元気なんてないわ。
変なこと言わないでよ」


「……ゴメン。」


家族の大事な話し合いなのに、茶化すような発言をしてしまった。


しゅん、と秋菜はしょげた。


「ったくう、秋菜は昔から突然、ぶっ飛んだこと言うんだよな。気を付けろよ」


さも呆れたように豪太が腕を組み直し、椅子の背にふんぞり返った。


「豪太に言われたくない…」と思ったけれど、何か言い返すと傷口が広がりそうなので秋菜は黙った。


しかし、今夜の場合、秋菜の勘違いはそんなに悪くなかった。
明らかに場が和んだから。



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