唯一無二のひと

その言葉を聞いたことはあるが、具体的にどういうものなのか秋菜にはわからなかった。


それは豪太も同じのようだった。



「透析って、辛いのよ。
週三回、病院に行って四時間くらい位管に繋がれて、じっとしていなけばならないの。

島田さんはそんな生活をもう二年もしているの。彼は今年、60歳よ。
縁起でもないけれど、いつ永遠の別れがくるかわからない。

ママはこれからの人生、島田さんと一緒に楽しく過ごしたいのよ。」


ふん、と小さく溜息のような相槌を豪太が打った。


「……それでね。
ママ、腎臓移植手術を受けようかと思うの。島田さんにママの腎臓を1つあげて島田さんに元気になってもらいたいと思ってるの」


「ええっ！」


口に両方の手のひらを当て、秋菜は絶句した。



ーー腎臓移植手術……



由紀恵の口から発せられたその言葉を喉の奥で反芻する。

そんなものは、別世界での出来事だと思っていた。


「移植って…由紀恵さんだって身体、丈夫じゃないでしょ。大丈夫なの？後遺症あるんじゃ？」


豪太が顔を曇らせ言う。

豪太は、昔から由紀恵が決して健康体ではないと思い込んでるところがあった。


秋菜が朝日山学園に入所した理由が由紀恵の体調不良だったことが、豪太の心の中に深く刻みこまれているようだった。


「私なら大丈夫よ。
時々腰が痛くなるくらいで、毎年の健康診断でもA評価ばかりなのよ。
すごいでしょ？

後遺症なんかは多かれ少なかれあるかもだけど、乗り越えてみせる。元々内臓が丈夫なのよ。
腎臓1つくらいなくたって大丈夫よ」


「でも、適合性とかあるでしょ。
検査受けたの？」


「それが適合したのよ！とても珍しいことなのよ。
夫婦であれば、血縁関係がなくても、移植が出来るのよ！」


豪太の問いに由紀恵はにっこりと嬉しそうに笑顔を見せ、テーブルの上で手を合わせた。